なぜ、OJT担当には忙しい人を選ぶのか
OJT担当を決めるなら、少し手が空いている人を選んだ方がよい。そう考えるのは自然です。
ところが、実際に任せたいと思うのは、仕事をよく理解し、周囲からも信頼されている人です。当然、その人はすでに忙しい。
忙しい人に、さらに後輩の指導まで任せる。負担を増やすだけのようにも見えます。
実際、そうなる人もいました。
後輩がついても、仕事が減らない
「自分でやった方が早い」
そう考える先輩は、自分の仕事を抱えたまま、後輩には測定やデータ処理だけを頼みます。
作業を説明し、終わったら結果を確認する。しかし、その後の判断や次の進め方は、すべて先輩が考える。
これでは先輩の仕事はほとんど減らず、説明と確認だけが増えていきます。
「教えていると、自分の仕事が進まない」
そう感じるのも無理はありません。
一方で、後輩を「自分の部下ができた」と捉える先輩もいます。
最初は、手順が決まった測定やデータ処理から任せる。慣れてきたら、結果をどう見るかを一緒に考える。さらに、次に何を確かめるかという提案まで任せていく。
後輩ができることが増えると、先輩は空いた時間を、分析や設計、次の課題の検討に使えるようになります。
同じように後輩を任されても、仕事が増える人と、扱える仕事を広げていく人に分かれるのです。
後輩を、ただの作業者にしない
測定やデータ処理だけを頼まれ、その意味を知らされなければ、後輩は興味を失っていきます。
そんな様子が見えたとき、私は現場へ行き、さりげなく話すことがありました。
「この測定には、こんな意味がある」
「このデータが、次の設計や判断につながっている」
目の前の作業が、その先の仕事とつながったとき、後輩の見方が変わります。
ただ数値を出すだけだった仕事が、「この変化は何だろう」「次は何を調べればよいだろう」と、考える仕事に変わっていきます。
先輩が自分でそこまで伝えられるなら、私は任せます。まだ難しければ、仕事の渡し方を助言したり、足りない部分をさりげなく補ったりします。
先輩に代わって教えるためではありません。
OJTで育っていた、もう一人
私が見ていたのは、後輩の成長だけではありませんでした。
仕事を切り分ける。相手に意味を伝える。考えるのを待つ。少しずつ判断を渡す。任せた後も、必要なときには支える。
先輩が後輩に向き合う中で身につけていたのは、技術の教え方だけではありません。
人を通じて成果を生み出す力でした。
OJTを任せるのは、大切な後輩を託せる人だからです。
そしてもう一つ。
自分で成果を出す技術者から、人と一緒に、より大きな成果をつくる側へ進んでほしい人だからです。
忙しい人に、なぜOJTを任せるのか。
その答えは、後輩だけを育てるためではありません。
OJTは、先輩がマネジメントへの最初の一歩を踏み出す機会でもあるのです。
OJTシリーズ第1回:OJTは、後輩だけでなく先輩も育てる
OJTシリーズ第2回:誰かのアウトプットは、必ず誰かのインプットになる
OJT・部下育成とのつながり
OJT担当を決めるとき、仕事ができる人や忙しい人に任せることは少なくありません。
ただし、OJTは後輩を育てるためだけの役割ではありません。教える側が、自分の仕事の進め方や判断の仕方を言葉にし、後輩が考えられるように関わることで、OJT担当者自身の成長にもつながります。
ThinkDoorでは、技術系・製造業の職場におけるOJTや部下育成について、現場で実践しやすい関わり方を整理しています。

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